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政治猫

猫が政治に戯れています

AIIBは秩序運営の実験室

1-2年位前から話題になったアジアインフラ投資銀行(AIIB)。

 

この1月から正式に開業したようです。加盟国は57カ国ですが、周知のとおり日本は不参加。ガバナンスに不安があり、中国の影響力が強いので参加すべきでない、または経済同友会のようにガバナンスさえしっかりすれば参加してもいいとする立場など、日本の参加をめぐってはいろいろ賛否両論がありました。

そうした日本の参加問題とは別に、今後中国がさらに台頭したとき、中国が秩序をどう運営するのか、そもそも中国主導の秩序ってありうるのか、AIIBはそれを占ううえで格好の素材です。

 

なぜか?

 

アイケンベリーによると、安定した秩序を構築するためには、弱小国は主導国が優位な状況を悪用したり、約束を履行しないのでは、といった不安を抱いているため、そうしたことは起こらないということを主導国は弱小国に確信させる必要があります。そのためには主導国のパワーを抑制できるルールや原則が秩序に備わっていて、かつ主導国がそのルールや原則に従うであろうと弱小国が認識していなければなりません。

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主導国からしてみても弱小国が不安を抱かずに進んで主導国がリードする秩序を受け入れてくれるほうがラク。弱小国が秩序に反発して、主導国が弱小国を従わせるために何度もパワーを行使しなければならないとすれば、秩序を維持するコストがばかになりません。なので、弱小国が自ら秩序のルールや原則に従ってくれるほうが、はるかに安上がりで済むわけです。

 

なので、主導国が利口なら、圧倒的なパワーに物を言わせて弱小国の不満を抑えつけるやり方よりも、弱小国が自分たちから進んで秩序に従ってくれるように仕向けることでしょう。

 

そのためには、弱小国の不安を薄めるため、主導国の横暴を抑えることができる仕組みが秩序に備わっていて、主導国がそれに従ってくれると弱小国が確信してくれることがとても重要ってわけです。

 

そもそもAIIBは中国の利益、シルクロード開発の促進、人民元の国際通貨化、中国国内で過剰生産状態に陥っている鉄鋼のはけ口、などのために設立されたと指摘されたように、AIIBは中国の利益のために設立されたと当然受け止められています。さらに出資比率にしても中国が3割を占めて事実上の拒否権を持っているといった具合に、中国のパワーを活かせてしまう舞台が整っています。

 

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だからこそ、中国目線で見れば、AIIBにおける中国の振る舞いがさらなる中国脅威論を煽るか、それとも中国による秩序は意外にOKっていう評価を得られるかの分かれ道といえるわけで、ですので、けっこう中国は抑制的に行動するんじゃないかと。中国のパワーを活かしたいのであれば、BRICS銀行やシルクロード基金、二国間援助を使うなど別のフォーラムがあるわけですし。

 

新聞報道によると開業式典は中国政府が完全に仕切っていたようですが、派遣への意欲を露骨にすると他国の反発を招くので、融和ムードの演出だったようです。

 

アジア開発銀行(ADB)によるとアジアのインフラ需要は2010年から2020年にかけて約1000兆円もあるそうです。ですので、AIIBの設立はインフラ開発資金の出し手が増えることを意味するので、悪い話ではなさそう。

 

 

しかし、グローバルレベルで見ればプラスでも、日中関係をどうするっていう視点で見ると、AIIBの成功は日本にとって痛し痒しな気がします。

 

絶対的な利得のありやなしやで見ればAIIBが順調に運営され日本企業もAIIB案件に参入できたり、中国が秩序の担い手として攻撃的な振る舞いをしないという安心感を得られることは日本にとってもプラスになります。しかし、アジアにおける主導国の地位争いという面では中国の権威の上昇は相対的に日本の権威の低下を意味するので、相対的な利得という意味では日本のアジアにおける地位低下にどうしてもつながってしまう。

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経済的に日本が中国に抜かれてしまった今、自由民主主義や法の支配、資本主義を信奉する国であることが日本と中国を差別化する1つの権威の源泉になっていて、自由民主主義や法の支配を信奉する信頼できる日本VS共産主義一党独裁でアジアや世界の秩序を脅かす現状修正主義的国家である中国、という図式が可能になるわけです。

 

もし、AIIBが西側的な意味でのガバナンスに成功して中国は秩序の担い手優等生ということになると日本と中国の差別化が難しくなって、日本の権威の源泉がなくなってしまうかもしれない。世界全体で見るとAIIBの成功は間違いなく世界にとってプラスなのですが、アジアにおける日中関係っていう文脈で見ると、日本にとっては悩ましい状況なのかもしれません。 

 

だからこそ、おおっぴらにはできないが、AIIBのガバナンスが失敗して「だから言わんこっちゃない」って言う機会をどこか心待ちしてるという人、多いんじゃないでしょうか。うまくいってしまうと、不参加を決めた安倍政権的にもちょっとかっこがつかないわけですし。

 

ちなみに正常に入札やった結果として中国企業の受注が相次いだ場合はどうするんでしょう?

 

通常、中国企業のほうが低コストなので入札金額が安く、さらにいくらADBがアジアのインフラ需要1000兆円って言っても全てが投資に値する優良案件というわけではないので、日本を含む先進国企業が二の足を踏んで参入しないことだって十分あり得えます。とした場合、正常に入札しても中国企業が受注することもあるわけです。

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そのときはやっぱり中国企業優遇してるって必ず言われるわけで、AIIBや中国はどうやってその疑いを晴らすのでしょうか。

 

その意味で日本を含む先進国企業に入札に参加してほしいと一番願っているのは実は中国なのかもしれないですね。

 

今日はこれにて。

 

● 「中国、新秩序へ足がかり アジア投資銀開業、57カ国参加」『日本経済新聞』2016年1月17日(朝刊)。

● G.ジョン・アイケンベリー『アフター・ヴィクトリー—戦後構築の論理と行動—』NTT出版、2004年。

● 関根栄一「中国政府によるアジアインフラ投資銀行設立の狙いと今後の展望」、http://www.nomurafoundation.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/CCMR8-04_Wi2015-07.pdf